「留学すれば考える力が育つ」は本当か?——867の研究が出した、意外な答え

英語が話せれば、グローバル人材?

公開日:2026年7月21日

筆者:増本 圭
(留学コンサルタント/教育研究者)

 国際教育歴18年(うち12年は米国留学支援)。フィリピン留学コンサルタント「CebuGo」運営。海外留学環境と批判的思考の発達に関する博士研究に従事(人材育成学会)。NPO法人留学協会所属。日本語・韓国語・英語のトリリンガル。

はじめに

留学すれば考える力が育つ?

 「留学して英語が話せるようになれば、グローバル人材になれる」。「海外でキャリアを積めば、国際的に活躍できる」。——本当にそうでしょうか。実は、留学の成否を分ける要素がひとつだけあり、スコアを教える専門家も、留学エージェントも、そこをほとんど語りません。


 Critical thinking(クリティカルシンキング)——日本語では「批判的思考」と訳されますが、人を批判する力のことではなく、自分の頭で確かめてから判断する力のことです。867の研究を精査したメタ分析が示したのは、海外の環境に浸るだけでは、この力は育たないという事実でした。
 この記事では、研究データをもとに留学とCritical thinkingの本当の関係と、留学を「考える力が育つ場」に変えるための条件を解説します。


批判的思考とは何か——人を批判する力ではありません

 批判的思考(クリティカルシンキング)とは、他人を批判する力ではなく、情報や自分自身の考えを、根拠に基づいて確かめてから判断する力のことです。

 この定義は思いつきではありません。
1990年、46人の専門家が数年がかりの合意形成を経てまとめた報告書(通称デルファイ・レポート)が、批判的思考を「解釈・分析・評価・推論」などの技能と、それを使おうとする態度の組み合わせとして定義しました(Facione, 1990)。以来、世界の教育研究はこの定義を土台にしています。

 なぜ留学とこの力が関係するのか。
答えは単純で、欧米の大学の授業が、この力を持っている前提で設計されているからです。講義を聞いて覚える場ではなく、自分の意見を根拠とともに述べ、他人の主張を検討する場。批判的思考は、そこでの「参加資格」に近いものです。


「海外に行けば自然に育つ」は本当か——867研究の答え

 研究が出した答えは、「環境に浸すだけでは、育ちにくい」です。
批判的思考の教え方には、大きく4つの型があることが知られています(Ennis, 1989)。
考え方そのものを独立して教える「一般型」、教科の中で明示的に教える「注入型」、教えずに環境や題材に浸らせる「没頭型」、そしてこれらを組み合わせる「混合型」です。

 では、どの型が効くのか。
Abramiらの研究チームは2015年、867の研究を精査したメタ分析でこの問いに答えを出しました。結論はこうです。没頭型——つまり「浸すだけ」の指導は効果が低く、考え方を明示的に教え、対話や議論を組み合わせた指導が最も効果的だった(Abrami et al., 2015)。

 ここで留学に話を戻します。「海外の環境に身を置けば、考える力も自然と育つはず」という期待は、4つの型で言えば典型的な没頭型です。
つまり、研究上もっとも効果が低いと示された方法に、留学の成果を賭けていることになります。
1日10時間の詰め込みでスコアを作る

[内部リンク: 記事4「点数保証コース」]も、構造は同じです。
管理と反復には強くても、「考える力を育てる装置」としては設計されていません。


では、留学は無意味なのか——「環境×介入」で最強になります

 留学が無意味なのではありません。
明示的な指導と対話が組み合わさったとき、留学環境は日本国内では作れない最強の教室になります。

 考えてみてください。
多国籍のクラスメイト、意見を求められる授業、常識が通じない日常。留学先には「対話と本物の問題」——メタ分析が効果的だと示した材料——が溢れています。足りないのは材料ではなく、それを学びに変える調理、つまり明示的な介入です。

 18年間、留学の現場を見てきた観察から言えば、ここが成果の分かれ目です。
同じ学校・同じ期間でも、渡航前に「何を・なぜ・どう学ぶか」を言語化し、留学中も対話の相手を持っていた人と、環境に入れば何とかなると考えていた人とでは、帰国時点でまったく別の人材になっています。後者の多くは、スコアという入場券だけを持って帰国し、日本で実務経験を積んだ同世代との差に、後から気づくことになります。


手続き代行とコーチングの違い——あなたの「考える力」に責任を持つのは誰か

 ここで、留学業界の構造について正直にお話しします。
一般的な留学エージェントの仕事は、手続きと学校手配の「代行」であり、あなたの思考力の成長には、契約上誰も責任を持っていません。

 多くのエージェントが無料で使えるのは、学校からの紹介料で運営されているからです。
この仕組み自体は悪ではありませんが、収益の構造上、仕事のゴールは「入学手続きの完了」に置かれます。
渡航後にあなたがどう考え、どう成長するかは、ビジネスモデルの外側にあるのです。

 CebuGoのコーチングは、この外側を埋めるために設計されています。
手続きの代行ではなく、批判的思考——自分の頭で考え、判断する力——そのものを軸に、渡航前の設計から帰国後のキャリアまで伴走する
運営者自身が、海外留学環境と批判的思考の発達をテーマに博士研究を行っている研究者でもあり、本記事で紹介した研究知見を、そのままカウンセリングの設計図として使っています。

 フィリピンの文化的環境が思考の力に与える影響については、
現在、博士研究として実証的な検証を進めています。ただしカウンセリングは研究のためのものではありません。
検証と並行して、一人ひとりに実際に改善が起きるよう設計された、サービスとしての伴走です。


自分は「自走できる側」か——4つの質問で確かめられます

 Critical thinking(クリティカルシンキング) 批判的思考を支える態度は、日本の研究で「論理的自覚」「探究心」「客観性」「証拠の重視」の4つの因子として捉えられることが示されています(平山・楠見, 2004)。

この4因子に対応した4つの質問に、迷いなく「はい」と答えられる人は、コーチングなしでも留学を成功させられる可能性が高い「自走型」です。ただし、18年の現場での観察から言えば、それはごく一部です。そして重要なのは、「はい」と言えなかった因子こそが、あなたの留学中のつまずきポイントを教えてくれるということです。

4つの質問の中身とセルフチェックは、[内部リンク: 診断記事]で試すことができます。
留学を決める前に、まず自分がどちら側かを確かめてみてください。


よくある質問(FAQ)

Q1. 批判的思考は、大人になってからでも鍛えられますか?

A. 鍛えられます。Abramiら(2015)のメタ分析が示したのは、まさに「適切な指導によって批判的思考は育つ」という事実です。生まれつきの才能ではなく、明示的な指導と対話の量で決まります。

Q2. この記事は「留学するな」という意味ですか?

A. 逆です。留学環境には考える力を育てる材料が溢れています。ただし材料だけでは育たないため、渡航前の設計と伴走を組み合わせることで、留学は最強の投資になります。

Q3.欧米ではなく、フィリピン留学でも批判的思考(考える力)は鍛えられますか?

A. 鍛えられます。大切なのは「国」ではなく「指導と対話の質」だからです。 研究が示した通り、欧米であっても「環境に浸るだけ」では思考力は育ちません。むしろフィリピン留学特有のマンツーマン授業は、講師との一対一の対話や議論が発生しやすいため、適切な学びの設計(明示的な介入)さえあれば、思考力を鍛えるのに非常に恵まれた環境と言えます。

Q4. 批判的思考とIELTSのスコアは関係がありますか?

A. あります。
特にIELTS 7.0以上のライティングやスピーキングでは、明確な立場と論理的な展開——つまり批判的思考の産物——が採点基準に組み込まれています。スコアの壁が思考の壁でもあるのです。

Q5. 渡航前の「伴走・コーチング」では、具体的にどのようなことを行うのですか?

A. 「何を・なぜ・どう学ぶか」の目標設計と、思考の癖を可視化するセルフチェックを行います。 渡航前に「批判的思考の4因子」をベースに自身の強み・課題を整理し、留学中の授業や日常で「どう問いを立て、どう対話するか」の具体的なアクションプランを構築します。環境に流されず、現地でのすべての経験を「思考力のトレーニング」に変えるためのベース作りを渡航前に行います。


留学設計の無料相談

研究知見に基づいた留学設計を、18年の現場経験から一緒に組み立てます。

完全無料でプロに相談!カウンセリング予約する

引用文献

  • Abrami, P. C., et al. (2015). Strategies for teaching students to think critically: A meta-analysis. Review of Educational Research, 85(2).
  • Ennis, R. H. (1989). Critical thinking and subject specificity: Clarification and needed research. Educational Researcher, 18(3).
  • Facione, P. A. (1990). Critical Thinking: A Statement of Expert Consensus for Purposes of Educational Assessment and Instruction (The Delphi Report). California Academic Press.
  • 平山るみ・楠見孝 (2004). 批判的思考態度が結論導出プロセスに及ぼす影響. 『教育心理学研究』, 52.

タグリスト